ある晴れた日に、雲の上で、何かがぴかぴかと光っているのをニャン太が気づきました。
三毛猫のニャン太とモモイロペリカンのジョニーは、二人で世界を旅しています。ジョニーの背中に乗って、あっちだ、こっちだと指示を出すのはニャン太の役目です。
「ジョニー、あそこに何か引っかかってるニャ。行ってみるニャ」
ジョニーは、背中に乗っているニャン太を見上げてやれやれといった様子です。
「まったく、よくそんなのを見つけるなあ。仕方がないな。どっちだい。」
ニャン太の好奇心と観察力に感心すると、翼をぐいっとひるがえし、目標の雲めがけて大きく方向を転換しました。
近づいてみると、もくもくとうごめく羊雲のはしっこに、ぴかぴかと光る金色のカギがひっかかり、時折吹き付ける風にゆらゆらと動いています。
「ジョニー、もうちょっと近づくニャ。手を伸ばせば何とかと届きそうニャ。」
「どうだい、届きそうかい」
「もうちょっとニャ。」
ウーンと手を伸ばしても、あとちょっとの所で届きません。
しばらくウンウンと頑張ったところで、いい考えが浮かびました。背中に手を伸ばし、この間西の森で拾ってきたマタタビの枝をむんずとつかむと、ズボッと袋から取り出しました。
「これで届くニャ」
そう言うと、枝の先をカギの根本のわっかの部分にひょいっと差し込みました。
「やったニャ」
喜び勇んで持ち上げると、意外にずしりと重く、危うくバランスを崩しかけました。
「うわっ、ニャン太、重いよ」
ジョニーは慌てて羽根に力を込めると、必死に体勢を立て直しました。
ニャン太はバタバタと翼を動かしているジョニーを尻目に、両手に抱えたぴかぴか光る金色のカギにしばらく見とれていました。
「ニャン太、このまま飛び続けるのはしんどいよ。とりあえずあの丘の上で休もうよ。」
ニャン太が下を見下ろすと、もこもこと続く森とさざ波に揺れる海岸にはさまれるように、ぽっこりと小高い丘が突き出ています。丘の真ん中にはいくつかの小岩があって、休むにはもってこいの様子です。
「よし、あそこでゆっくりとカギを眺めてみるニャ。」
「そうだね。オレにも見せてくれよ。」
もうひと踏ん張りとばかりに翼をはためかせると、ぴゅーと風を切り、目指す丘までたどり着きました。
バサッと大きく翼を広げながら、バランスを崩さないよう注意をしながら両足を地面につけました。ドスン、心なしかいつもより大きな音がしました。
しげしげとカギを眺めるニャン太の横で、フゥと大きく吐きながら、ジョニーは翼を休めています。
「ん、ここに何か書いてあるニャ」
岩にもたれかけて休んでいるジョニーのそばで、ニャン太がカギの横に彫り込んである文字に気づきました。
「どれどれ、なんてあるんだい」
まだ心なしか息はあらいめですが、それ以上に気になるのかジョニーはやおら立ち上がり、ニャン太の顔の横に大きなくちばしをつっこんできました。
カギには丸みを帯びた、しかしりりしさと力強さを持った字でこう書かれていました。
***地球の生物の代表に、このカギを託す***
「生物の代表・・、このカギを託す・・?」
あっけに取られたような声で二人一緒に読み上げた後、ぽかーんとしばらく口を開けたまま立ちつくしました。
ヒューッと海からの潮の香りが風と共に丘の上に吹いてくると、二人は我に返ったように顔を見合わせました。
「ニャン太、もしかしてオレたち、とんでもないもの拾っちゃったのかな・・。」
「どうしたものかニャ、見なかったことにしようかニャ?」
「でも、これがホントにとんでもないものだったら、放っておく方がヤバイんじゃないの?」
「代表って言われたって、誰に渡せばいいのか分からないニャ・・。」
困った二人は、丘を海岸沿いに降りて行った先の岬の沖合に住んでいる、海で一番賢いと噂のクジラばばあに相談することにしました。
てくてくと海岸沿いに歩き、岬の先までたどり着くと、海に向かって思い切り叫びました。
「おーい、おーい、クジラばばあ、聞こえていたら返事をしてくれぇ!」
2度、3度、叫んでも返事はありません。沖に食事でもしに行っているのかとあきらめかけた時、目の前にブシューッと勢いよく潮が吹き上がりました。
二人はザバーンと海水をかぶり、頭の先から足の先までびしょびしょです。
ブルブルっと体を震わせ、体の水を払っているとクジラばばあが話しかけてきました。
「なんだい、小さなおふたりさん、あたしを呼んだかね。」
クジラばばあは体も大きいですが、その声も負けず劣らずです。あまりに近くだったので、大きな声に二人の体はびりびりと震えました。
「クジラばばあ、こんにちは。悪いけど、もうちょっと小さな声でしゃべって欲しいニャ。鼓膜が破れそうニャ。」
「おやおや、そりゃ悪かったねぇ。で、なにかあたしに用かい。」
「実は、ついさっき、雲の上に引っかかっていたこのカギを見つけたニャ。クジラばばあ、このカギ見たことないかニャ」
そう言うと、カギをクジラばばあの前に高々と差し出しました。
「見たこと無いねえ。」
ニャン太が書いてあった文字のことを話すと、クジラばばあはひとしきり考えた後、ブシューと潮をあげ、言いました。
「代表といっても、私にもわかんないねえ。でも、代表というのなら、勝手に誰かが決めるわけにはいかないだろう。みんなで話し合って、代表を決めないといけないさ。」
「エーっ、みんなで決める?どうやってみんなに伝えるのさ。」
「海の仲間には、あたしから言っておくよ。場所はここでいいだろう。ここなら、海の仲間も近づいてこれるし、陸に住むあんたらとも一緒に話ができるからね。場所は1ヶ月後でいいだろう。そうと決まれば善は急げだ。こっちは任しておくれ。そっちは任したよ。」
二人が考える間もなく、クジラばばあはバシャーンと大きな音をさせると、あっという間に波間に沈んでいきました。
二人はまたもやびしょびしょになって、その場に取り残されてしまいました。
ぽたぽたと顔から落ちるしずくをぬぐおうともせず、二人はボーッとつっ立っています。
「どうしよう、ジョニー。よけい大ごとになっちゃったニャ」
「こうなったらオレたちもみんなに伝えないといけないようだね。期限は1ヶ月後、この岬だ。」
二人はどうやってみんなにこの話を伝えていくかを話し合い始めました。
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