飛ばない鳥?飛べない鳥?




 鳥は、世界中に広く生息し、現在ほ乳類と並び地上で繁栄をしている動物のグループです。
 「その特徴は?」と聞かれると、誰もが「空を自由に飛べること」と答えると思います。
 でも、たしかに大多数の鳥は空を飛ぶ能力を持っていますが、中には空を飛ぶことのできない、風変わりな鳥もいます。彼らはなぜ他の鳥のように空を飛ばないのでしょうか。

 空を飛ばない鳥を風変わりだと決めつける前に、考えないといけないことは、「
鳥は空を飛ぶことを有力な生存の手段としてはいるが、空を飛ぶことが鳥にとっての種の存続のための唯一の手段ではない」ということです。

 飛ばない鳥にはいくつかのタイプがあります。
 それぞれを僕なりに分類すると、

1.
最初から飛ばない方向で進化したもの
2.
翼を飛行以外の用途に適応させたもの
3.
飛ぶ必要のない環境の元で、飛ぶことをやめたもの

 です。
 「飛べない鳥」という名称は、実はけっこう
失礼な名前です。飛べないという言葉は、飛びたいのに飛ぶことができない、という意味を持っているからです。
 彼らの名誉回復(?)のために、なぜ彼らが飛ばないのかをそれぞれ考えてみます。

1.
最初から飛ばない方向で進化したもの

 
ダチョウエミューモアといった走鳥類は、鳥の進化のかなり初期で飛ぶグループと分かれ、独自の進化を始めたと考えられています。
 骨の内部が中空であるなど、飛ぶためのしくみは一部持っていますが、飛ぶための筋肉が付着する胸の骨の突起がなく、
初期から飛ばない方向で進化し始めたと考えられています。

 走鳥類の名の通り、彼らは2本足によって巧みに歩行します。ダチョウは時速70kmで30分間走ることができるそうです。

 ダチョウはアフリカ、エミューはオーストラリア、モアはニュージーランドと分布が南半球に偏っているのは、かつて
アフリカ・オーストラリア・インド・南極大陸ゴンドワナ大陸という大きなひとつの超大陸であったときすでに、先祖が現れていたためと考えられています。

 それぞれの大陸に先祖が飛んで渡り、そこで飛べなくなったのではなく、
先祖が歩いて移動した後で大陸の分裂が起こり、互いに隔離されたのです。

 このグループは、飛べないのではなく
そもそも最初から飛ばないのです。

2.
翼を飛行以外の用途に適応させたもの

 
ペンギンで代表的ですが、翼を飛ぶこと以外に用い始め、その翼は飛行に適さなくなったものです。
 ペンギンは空を飛びませんが、彼らはそのかわりに
海の中を自由自在に泳ぎ回ることができます。

 ペンギンの翼は
肘から手首まではほぼ固定されていて、肩で発生した力をロスさせることなく水を漕ぐ力に変換します。
 高性能の櫂(かい)を2本持っているようなものですが、関節は曲がらないので羽ばたくことはもはや不可能です。

 ペンギン以外にも、かつて北大西洋に広く分布し、乱獲で絶滅してしまった
オオウミガラスなどがいます。

 このグループの鳥が飛ばない理由は、「
空以外に生活環境を見いだし、そこに適応していくかたちで翼の形態を変化させていった」ということです。

3.
飛ぶ必要のない環境の元で、飛ぶことをやめたもの

 飛ぶことは、鳥にとっては実は大変なことです。飛ぶためにはたくさんの筋肉を備え、
多くのエネルギーを費やさなくてはなりません。
 体のしくみも、大型化しにくい、採食時間を短くする必要がある、など
制限する条件がついてきます。

 そこまでしてなぜ鳥が飛ぶ能力を向上させてきたか、ということを裏返して見れば、
飛ぶ能力を向上させなければ外敵に襲われ、淘汰されてしまう圧力が働いていたからです。

 そのため、
飛ばなくても外敵の脅威がない環境におかれると、鳥はしばしば飛ぶ能力を放棄することがあります。

 典型的には、
海の中の孤島という環境でよく見られます。海底火山の影響など、なにかしらの原因で海の中に島ができたとき、最初は生物はそこにはいません。
 植物の種子が風で運ばれてきて、草木が育ち、ある程度の環境が整うと、鳥が飛んでやってきたり、小型の齧歯類などの小動物が潮に流されてやってきたりして定着していきます。

 大陸から隔絶された孤島には
捕食者はおらず、飛行能力が高いことが生存の必須条件にはならない環境です。
 また、飛ぶということは鳥にとって多くのエネルギーを費やさなくてはならないことであり、
飛ぶことよりも繁殖の方に多くのエネルギーを用いる個体の方がより多くの子孫を残せることになります。
 結果として、孤島ではしばしば飛ぶことをやめた鳥が見られます。

 かつてモーリシャス島などに生息していた
ドードーはハトの仲間です。その先祖はかつては空を飛んでいました。
 島まで飛んでやってきて定着し、飛ぶ必要のない環境で独自の進化を遂げるうち、やがて飛ぶのをやめ、飛ばない鳥になっていったと考えられています。

 隔離された環境におかれた鳥にとっては、「
飛ばなくとも生きていけるので飛ぶ必要がない」のです。
 もし彼らが“飛びたいと思っても飛ぶことができない”と感じることがあるとすれば、それは人がその島に移入種として持ち込んだ猫や犬に襲われたときであるかもしれません。

結論:

 飛びたいかどうかは、結局本人に聞かないと分からないことではありますが、それぞれのグループはそれぞれの理由で
飛ばない体のしくみを発達させてきており、今存在しています。
 「かわいそうに、空を飛べないなんて」と哀れむのは、「鳥は空を飛ぶもんだ」という人間の思いこみが生み出す勝手な考えです。