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奇蹄類と偶蹄類は共に有蹄類という、蹄(ひづめ)を持った草食動物です。
現在は奇蹄類はウマ・バク・サイの3科、23種が地球上で知られています。
それに対して偶蹄類は、イノシシ、カバ、ラクダ、シカ、キリン、ウシなどの9科、185種です(クジラはDNA解析ではカバの近縁とされていますが、偶蹄類と呼べるかどうかは議論中のようです)。
かつては、奇蹄類の方が勢力が大きい時期もありましたが、偶蹄類の進化に伴って、奇蹄類はやや押されています。
その誕生と体のしくみを比べながら、それぞれがどうやってここまで進化してきたのかを見てみたいと思います。
新生代の第三期中頃までは温暖な気候が続き、大陸には大きな森が広がっていました。始新世まではウマの祖先も、ウシの祖先も森の中を歩き回り、柔らかい葉を食べていました。
漸新世に入り気候が寒冷化してくると、生活環境にひとつの大きな変化が訪れます。
それまで広く分布していた森が後退し、代わってイネ科植物の草原が広く分布し始めたのです。
森林と比べると、草原で暮らすには2つの困ったことがあります。
それは、草原には身を隠すところがないということと、イネ科の植物は、それまで食物にしていた葉と比べるととても硬く、消化しにくいということです。
森林は木の間に身を隠しながら移動していれば敵に見つかりにくい環境でした。草原はずうっと先までひたすら背の低い草が続く場所です。身を隠す木というのは無いか、あってもまばらでしかありません。
従って、草原での生存戦略はごく単純なものとなります。すなわち、「敵を見かけたら走って逃げる!」ということです。
それは捕食者にとっても同じです。森の中では待ち伏せ・奇襲の作戦が役に立ちましたが、草原地帯では身を潜めながら近づいたら、後は走って捕まえなければなりません。
当然、食べる側も食べられる側も、走力を向上させる方向に進化していくことになります。
有蹄類の祖先たちも、しだいに速く走るために体のしくみを発達させていきました。
歩行の仕方を分類すると、現在のほ乳類は3種類に分かれます。すなわち、
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蹠行性
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ヒトやクマのように、かかとを地面に付けながらぺたぺたと歩く。早さに劣るが安定性に優れる。
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趾行性
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イヌやネコのように、肉球で体を支えて歩く。それなりのスピードを出せ、静かに忍び寄ったり、急旋回が可能。
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蹄行性
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ウマやウシのように、指先だけで体を支える。最もスピードが出るが、足は走る以外の用途を持てない。
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有蹄類の立ち方は、指を真っ直ぐ伸ばし、その先だけで支えていると考えれば、分かりやすいと思います。
有蹄類は先祖の指の数はいずれも5本ですが、進化の過程で指の数を減らしていきました。
少ない数の指で体を支えるために、大切な主軸となる指の骨は丈夫になっていき、体重を支えない骨は細くなっていき、やがて痕跡となって姿を消しました。
奇蹄類は第3指の一本だけで体を支えるように進化し、偶蹄類は第3指と第4指の二本で体を支えるように進化しました。
初期のウマは指がまだ3〜4本と複数ありましたが、草原に進出し、速く走るようになっていく過程で指を少しずつ減らしていきました。
ちなみに、サイは3本、バクは前4・後3本の指を持っています。
偶蹄類でも、ウシは完全に2本だけになっていますが、シカは小さな第2・5指があり、4本指となっています。
有蹄類は指先で足を支えるために、その爪は頑丈になり、蹄を形成するようになりました。
草原に進出した有蹄類が発達させたのは、移動手段だけではありません。
草原は硬い葉を持つイネ科の草が生い茂るところです。植物の細胞はセルロースという頑丈な壁に守られています。普通の木は体を支えるための幹と、光合成を行う葉は別々であり、その葉は柔らかです。
しかし、草はそれ自体が光合成と共に体を支える支持器官でもあるため、とても頑丈です。食物とするには消化するのが大変です。
雑食動物の人間でも、米は食べることができても、その草の部分は食べることができません。
有蹄類は、硬い葉を消化するために、共通のしくみを用いています。それは「腸内細菌」を利用するということです。
自分の持つ酵素ではセルロースを壊すことはできません。そこで、セルロースを分解する細菌を腸内に大量に住まわせ、細菌に細胞壁を分解させます。細胞壁を壊させることによって、初めて植物を栄養源として利用することが可能になるのです。
奇蹄類が腸内細菌に発酵を行わせている場所は「盲腸」です。
人間の盲腸は、あってもほとんど役に立っていない、退化した器官となっています。ウマの盲腸は1.2mにも及ぶ巨大なものとなっています。
しかし、その欠点は、盲腸が小腸と大腸の間に位置するということです。栄養分を最も効率よく吸収する臓器は小腸です。小腸を過ぎた位置に発酵器官があるということは、栄養分のうち吸収できない分がその分出てしまうということです。
それに対して、偶蹄類(イノシシの仲間を除く)が発酵に利用している器官は「複胃」です。本来の胃の手前の食道部分が袋状になり、新たな胃(厳密には胃ではないけれど)を形成したものです。
ウマが胃を1つしか持っていませんが、ウシは胃を4つ持っています。ウシは胃である程度発酵させたものを口の中に戻し、噛むことによって撹拌させ、飲み込んでまた発酵させるという「反芻」を行います。
反芻をすることによって微生物により一層の消化をさせ、栄養分をさらに効率よく取り出すことが可能です。
また、胃は小腸の前にあるため、とりだした栄養分の多くを小腸で吸収することが可能です。
現在、偶蹄類は奇蹄類よりも科、種ともに多数となり、勢力では優勢です。
その大きな要因は、走る能力よりも、偶蹄類、特に反芻類が編み出した優れた消化システムにあると言えるでしょう。 |
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