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2005年の9月から、当院ではクレジットカードを導入しました。VISA,MASTER,JCB,AMEXと、メジャーなカードは一通り使えるようになりました。
カードが使えるようになれば、飼い主さんにとっての利便性は確実に高くなります。でも、カードを導入することを決めた理由は、そういうことではありません。
うちでカードを使えるようにした理由は、ごく単純です。
その理由は、「未払い金の催促の電話をすることに嫌気が差したから」です。
動物病院は、料金を踏みたおされることがしばしばある業種です。テレビを買ったり、何かを買ったなどというのと違い、窃盗行為をしている意識があまり起こらないからかも知れません。困っている飼い主を助けるのは当然の行為だと、罪悪感はあまり感じられないのかも知れません(治療費の踏みたおしと動物病院のジレンマ)。
でも、動物病院も、その経営は患者さんから治療費をいただくことによって成り立っています。獣医師だって社会の中で生きる人間です。月々の莫大な借金を返しつつ、家族を養っていかなければなりません。
踏みたおしをする人は、お金を借りるときは感謝の言葉を述べます(中には、まったく悪びれる様子もない人もいますが・・)。
踏みたおしをする人は、後日電話をしてもいろいろと理由を述べながらあやふやな対応を繰り返すばかりで、結局払ってくれません。そして、いつしか電話しても全く出てくれなくなり、電話もつながらなくなり、音信不通になって、踏みたおし成立となります。
踏みたおしをする人に対しては、獣医師としてというより人間として腹が立ちます。社会の中でいつまでもそうやって生きていくのかと、怒りや憤りも感じます。
踏み倒されると、正直腹が立ちます。
でも、もっと嫌なのは、そうやって電話をかけて相手に請求していると、自分が正当な料金を請求しているだけのはずなのに、自分が金のために働いているような気がしたり、相手に「金儲け主義」と思われているような気がしたりすることです。
請求のために相手に電話をしていると、本当に嫌な気分になります。
診察して、治療しているときには、相手が踏み倒すかどうかなんてことは考えたりはしません。精一杯頭を使い、心を注いで、文字通り魂を削って治療しています。
でも、そうやって、誠意を尽くして行動したとしても、相手が治療費を踏み倒して音信不通になったりすると、その分よけいがっくりきます。自分が心を注いだことが否定された気分になって、一生懸命やったことがばかばかしく感じられることもあります。
真夜中に起こされて治療したりすることもよくあります。でも、真夜中にこちらを起こしておいて、治療して会計の時に「お金を忘れました」と言う人は、高い確率で二度と来ません。
誠心誠意で対応して踏み倒されたときには、本当に嫌な気分になります。
獣医師だって、心を持った人間です。自分の心を大切にしたいですし、嫌な気分を感じながら仕事をしたくはありません。
踏みたおしによって嫌な気分をしないようにするには、
1.払わない人には請求しない
2.払わない人は断る
の2つにひとつしかありません。
どちらを選ぶかは実際苦渋の選択となりますが、心と体と経営の面でそれぞれの現状と理想を考慮しながら、選択をするしかありません。
治療には精神力も体力も使いますし、薬や医療機器を用いる以上、それだけ経費もかかります。
踏み倒そうとする人にまで、誠意を尽くして、心と魂を削ってまで対応することは、獣医師が生身の人間である以上限界があります。
踏みたおしをする人は、獣医師の心と体という資源を削りとることによって、結果として一般の飼い主さんに対しても迷惑をかけているのです。
また、動物病院は治療費を用いて病院を運営しています。治療するには経費がかかりますし、用いている機器もすべて莫大な借金を返済しながら導入しているものです。
治療費をつけにするということは、病院が治療費を立て替えるということです。立て替えた治療費を踏み倒されるということは、そのまま病院に損害を加えられるということです。
病院に損害を与えられて、それを見過ごし続けることは、金持ちのぼんぼんが道楽でやっているのでもない以上、経営面からいっても不可能です。
精神力・体力・資金に限界がある以上、「払わない人には請求しない」という選択肢を取ることはできません。
そうであれば、「払わない人は断る」という選択肢を取り、最初から踏みたおしが生まれないようなシステムをつくりだしていくしかありません。
クレジットカードの導入はそのためのものです。
僕は、お金がないからといって治療を断ったりはしたくありません。でも、お金を踏み倒されるのをだまって見過ごすわけにはいけません。
クレジットカードを導入したのは、獣医師の心と体、そして病院を守るためです。
クレジットカードを使ってもらった場合、飼い主さんとの間にお金の貸し借りは発生しません。
分かりやすく言えば、「動物病院にお金を借りるのではなく、カード会社にお金を借りてくれ」ということです。
そうすれば、踏みたおしを生み出すこともなく、お金を理由に断る必要もなくなります。支払をしてもらえるかという心配をしながら治療したくはありません。
ただ、カードでの支払を拒絶された場合には、診察をお断りせざるを得ません。そこでカードを持っていないからといって、現金のつけにすることはできません。
獣医師の持っている資源が有限である以上、できることとできないことがあります。それはしっかりと線引きをしなければいけません。
現金のつけをするということは、踏みたおしに直結することであり、病院にとってはできないことです。
踏みたおしはだいたい30〜50人に1件くらいの割合で起こります。確率にして、2〜3%くらいでしょうか。でも、動物病院にとってのストレスの約20〜30%の割合は、踏みたおしからくるものです。
踏みたおしをする人は文字通り、獣医師の心と体を削り取っていきます。なおかつ、獣医師の気力や志までむしばんでいきます。でも、本人はそんなことには、多分気づいてはいません。
「お金を払ってください」と電話をするのは、正直もううんざりです。
獣医師も人間である以上、誠意を持って対応したなら、誠意を持って答えて欲しいと願っています。
こちらの心体を削っておきながら、音信不通になってしまうような誠意のない人とおつきあいをすることはしたくありません。
動物を飼うということは、お金のかかる行為です。そして、自分の責任を取るというのも、おおむねお金のかかる行為です。
社会の中で生きる以上、自分が責任を取れる範囲の中で、行動していかなければなりません。自分の責任の取れない行動は、最初からしてはいけません。
責任ある行動を取れる人だけが動物を飼って欲しいと、心から願います。 |
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