犬のかかとの皮膚移植手術

 かかとの皮膚が欠損してしまったという犬が来院しました。欠損部位が大きく、そのままでは皮膚がふさがらなかったため、皮膚の移植術を行うことにしました。

 術野です。大きな皮膚欠損が見られます。
 真ん中部分をのぞき、術野には健康な肉芽が盛っています。健康な肉芽は、移植した皮膚組織を養うために必須の要素です。

 術野を洗浄・消毒してドレープをかけます。
 肉芽の上は、もこもことしていますので、ガーゼでこすって余分な肉芽を取り去り、生着しやすい状態にします。
 欠損の大きさに合わせて、脇腹の部分から移植する皮膚を採取します。
 移植する皮膚から、メスや鋏を用いて余分な皮下組織と脂肪を除去します。
 移植した組織が、下の組織から血液供給をもらえるかが手術の成功の分かれ目です。
 丁寧に、しっかりとこの作業をしておかなければ、せっかく移植した皮膚が生着してくれません。
 格子状にスリット状の穴を複数開けます。
 これにより、組織のつっぱりや浸出液の貯留を防ぎ、下の組織との生着を促します。
 移植組織の下に浸出液がたまると、移植組織が持ち上げられ、生着が妨げられます。
 移植組織の用意ができると、欠損部位にあてがい、穴の大きさを調節しながら組織を縫合して行きます。
 縫合終了です。中央部分だけ、肉芽の発達が少なく、追加の縫合を行ったものの、密着が弱い模様です。
 手術直後です。
 移植後はきれいに見えるものなのですが、問題は、移植した組織が下に生着し、血液供給を受けて生き延びられるかどうかです。
 閉鎖包帯を施して、移植皮膚を保護しつつ、移植片の生着と上皮の再生を促します。
 術後一週間で抜糸を行いました。
 周辺部分はきれいに生着し、血行状態も良かったのですが、中央の浮き上がった部分は生着できず、脱落してきた模様です。
 術後二週間です。
 中央部分は一部脱落しましたが、その他はきれいに生着しています。
 スリット部分には、ほぼ上皮細胞が入り込んで穴を塞いでいます。
 術後三週間です。
 中央部分にも皮膚組織が侵入し、ほぼふさがってきました。
 傷の閉鎖ももう一息です。
 術後四週間です。
 表面の全体が上皮細胞で覆われました。これで治療は終了です。
 まだ、正常なかかとに比べると皮膚は薄いため、しばらくはバンテージをしておいて、皮膚を保護してもらいます。
 かかとの部分は、皮膚欠損の中でも厄介な場所です。
 体幹上の欠損であれば、多少の欠損ならそのままなんとか寄せられることが多いのですが、四肢だと、縫い寄せて来る皮膚がありません。皮膚移植をするにしても、関節上だと皮膚が生着しにくいです。
 今回は、幸いに移植した皮膚は無事下に生着して、皮膚の欠損を埋めることができました。
 皮膚移植の欠点は、そこに新しい毛が生えて来たときに、元の毛色と違う毛色になる可能性があるということがありますので、そのことは術前に説明しておく必要があります。