犬の潜在睾丸の摘出


 犬の去勢手術の依頼ですが、左のタマタマは降りているものの、右のタマタマが処置できません。
 潜在睾丸と言って、お腹の中に睾丸があり、降りてきていない状態です。
 将来の腫瘍化の可能性が考えられるため、手術することになりました。
 黄色のラインが切皮する部位です。

 臍の下から、包皮のすぐ上までを切皮し、開腹します。
 厳密な場所は開けてみて探ることになります。
 しばらく探していると見つかりました。
 精巣は、頭側は動・静脈で腎臓付近と、尾側は靱帯と精管で後方につながれているため、なかなか外側に出てきません。ゆっくり外側に引き出してから、結紮にうつります。
 尾側の靱帯と精管を結紮し、切断します。
 本当なら、この靱帯に引っ張られて、生誕前後に精巣が陰嚢内に下降しているはずでした。
 靱帯が切断されると、体外に精巣が出てくるようになります。
 中指のあたりのやたら太い血管が、動静脈叢といって、精巣に行く血液が冷やされてから精巣に入っていくためのしくみですが、精巣自体がお腹の中に残っているため、役に立ってはいません。
 動静脈叢を結紮・切断します。
 あとは、腹膜、皮下織、皮膚の順に、定法に則り、閉鎖して終了です。
 右が正常な精巣、左が腹腔内にあった潜在睾丸です。
 潜在睾丸は、正常精巣に比べ、小さく、未発達です。


陰睾 その2


 どこにあるかがすんなり分かればいいのですが、しばしば精巣が分かりにくいことがあります。
 「ない」ということは、まずないので、頑張って探します。
 手がかりは、膀胱の裏側から精巣に向かって伸びている精管です。

 精管をたどっていくと、えらい太い血管が現れました。これが、精巣にある独自の構造である、動静脈叢です。
 そのさらにうえっ側を探ると、腸管膜の脂肪と一体になった精巣を見つけることができました。
 証拠写真です。精巣は、萎縮して、大豆ほどの大きさになっていました。
 腸管膜脂肪との分離は無理だったので、周りの脂肪を含めて摘出しています。
 場合により、潜在睾丸は見つかりにくいことがあります。今回のような症例では、レントゲンを撮っても、超音波を当てても術前に場所を特定するのは難しいでしょう。
 しかし、潜在睾丸を摘出することが手術の目的なので、がんばって見つけないといけません。下降している方の去勢だけしても意味がありません。


陰睾 その3


 精巣が陰嚢内にない場合で、そけい部に存在している場合があります。
 その時は、おなかを開ける必要なく精巣を取り出すことができるため、幸運であると言えます。
 麻酔をかけて毛を剃らないと分かりづらいこともあります。