犬の腹壁ヘルニアの手術

 陰茎の横が急に腫れて来たという犬が来院です。
 見てみると、ぽっこりと膨らんでいるようですが、特に痛みや炎症はありませんでした。腫瘍も疑いましたが、触ってみると柔らかく、腫瘍ではなさそうです。

 レントゲンを撮ってみると、腸の陰影が腹腔外に写っており、ヘルニアであることが判明しました。
 放置しておくと癒着や腸管閉塞を引き起こす可能性があるため、手術をして整復することにしました。

 麻酔をかけて仰向きにした状態です。
 ペニスの右側に飛び出ているのがヘルニアです。
 脱出した臓器は量が多く、ペニスの下をくぐり抜けて、左側まではみ出て来ています。
 脱出部位を押し込むと、ほぼ腹腔内に戻りました。
 注意深く触診を行うと、大きなヘルニア孔が確認されました。
 還納後です。
 腸管は全て戻りましたが、脂肪〜大網らしきものがいくらか皮下に残ったままでした。
 皮膚を切開すると、腹腔内組織がまだ残っていました。
 ヘルニア孔を確認後、指で慎重に腹腔内に組織を戻しました。
 組織を全て腹腔内に戻すと、ヘルニア孔をもう一度確認します。
 穴は腹壁が大きく裂けて出来たものであり(「腹壁ヘルニア」)、裂け目は包皮の横から恥骨まで達していました。
 裂け目を確認したら、筋肉をナイロン糸で縫合して、穴を塞いで行きます。
 縫合するときに脂肪などを巻き込むと、強固な接着が阻害される可能性があるため、慎重にひとつひとつ縫合して行きます。
 腹壁を縫合したら、皮下に漿液がたまらないよう、皮下織も密に縫い合わせます。その後皮膚を縫合したら手術は終了です。
 前立腺肥大も起こしていたので、去勢手術もあわせて行っています。
 当初、鼠径ヘルニアも考えていたのですが、開けてみると、腹壁が裂けて臓器が飛び出している「腹壁ヘルニア」でした。
 腸が大きく飛び出していたものの、症例は元気で食欲もあり、便も普通にしていたのですが、これが腸の捻転や閉塞を起こすと、急変し、命に関わってくる可能性もあります。
 時間が経つと、周りの組織が癒着して整復も困難になる可能性がありますので、速やかな手術が望まれました。
 腹壁ヘルニアの原因としては、
外傷が一番多いとされているのですが、今回は原因ははっきりしませんでした。
 抜糸のときにはきれいになっていたのですが、今後も注意深く見てもらっておく必要があります。