犬の去勢

 犬の麻酔は、ほぼ全て、ブトルファノール+ミダゾラム+プロポフォールで導入し、イソフルレンで維持するというプロトコルで行っています。
 全手術において、麻酔モニタを用いて、呼気中CO2、SpO2、血圧をモニタして行います。
 避妊手術は、健康な子を預かり、健康にお返しすることが大切なことですので、若くて健康だからといって、一切、気は抜けません。

 すべての手術において、何より大切にしていることは、ひとつひとつの手技をきっちりして、
安全に、確実に、丁寧に、手術を行うことです。小動物の組織は繊細ですので、細心の注意を払って手術をしています。

 術前の写真です。ドレープをかけて、術野以外が出ないようにし、清潔に保ちます。
 皮膚を切開し、今切ろうとしているのが総鞘膜という、精巣を包んでいる膜です。
 精巣を外に出し、根本の血管が細くなったところで2カ所縛ります。
 きっちり縛ったら、それよりも外側で切断し、出血がないことを確認します。
 左の鉗子は総鞘膜を保持しています。
 精巣です。大きさは犬により様々です。
 総鞘膜を縛り、余分な膜を切除します。
 逆側の精巣も同じようにして摘出します。
 使用している糸は、PDSという吸収糸です。丈夫で長持ちする、使い勝手の良い糸ですが、難点は高価なことです。
 皮下組織もきっちりと縫い合わせ、余分な死腔を無くします。
 終了です。犬では、タマタマの前の部分で切皮しています。
 皮膚も吸収糸で縫っているので、基本的に抜糸は必要ありません。
  雄犬には高齢化に伴い、前立腺肥大、精巣腫瘍、会陰ヘルニア、肛門周囲腫瘍などの病気があります。若いうちに去勢手術をしておくことによって、年を取ってから病気になる危険性を減らすことができます。それに伴い平均寿命は2年から3年のびると報告されています。
 雄犬は雌よりも
支配性、ケンカ、脱走癖の可能性が高いですが、性にまつわる部分はその傾向を減らすことができます。また発情期の犬に興奮したりすることはなくなります。
 手術をして性格が変わることはありませんが、すこしおとなしくなることが多いようです。手術したコは高齢化に伴い、やや
太りやすくなる傾向がありますので、食餌面の管理に気をつける必要があります。
 本人への負担は比較的少なく、
より飼育しやすく、また寿命が延びてより健康に過ごせるようになることが期待されますので、繁殖に使わないコは去勢手術をしておくことをおすすめします。