犬のチェリーアイの手術

 犬の目の内側がぽっこりと飛び出て来たという飼い主さんが来院しました。見てみると、しゅん膜腺が大きく外側に飛び出している「チェリーアイ」の状態です。
 手で押して戻る場合もあるのですが、今回は押してもまったく戻る様子がなかったため、手術を行って整復することにしました。

 麻酔をかけ、目の周囲を毛刈り消毒すると、ドレープをかけて手術の準備完了です。
 見えているのが脱出したしゅん膜腺です。

 ナイロン糸を2本掛け、裏側を露出させると、脱出したしゅん膜腺を確認します。
 しゅん膜腺の表面を軽く掻爬して、
埋没させたときに癒着しやすいようにしておきます。しっかり癒着すれば、再脱出の可能性が低くなります。
 脱出したしゅん膜を囲むように、裏側にメスで切開を入れます。
 黄色線が、切開線を施したラインです。
 脱出したしゅん膜腺が埋没するように、吸収糸を用いて切開線を縫合して行きます。
 
糸の断端が角膜表面にあたると角膜潰瘍の原因になりますので、最初の断端は粘膜の内側に埋没させておきます。
 縫合を終えると、脱出したしゅん膜腺は内側に埋没して閉じ込められる形になります。
 最後の断端も、角膜にあたらないようにしゅん膜の外側に作っておきます。
 ナイロン糸を用いて、再脱出が起こらないように支持縫合を施しておきます。
 しゅん膜腺をうまく取り囲むように糸を配置させます。
 黄色の点線が向こう側のラインです。しゅん膜腺の裏側から、再脱出が起こらないように押さえ込む役目をさせます。
 きつくなりすぎず、緩くもならないように、注意を払いながら縫合します。
 縫合を終えるとこれで手術は終了です。
 腫れはしばらく続きますので、目薬をしばらく使用してもらいます。
 チェリーアイは、犬でよく見られる病気ですが、早く整復しないと、しゅん膜腺が大きく腫れたり、感染が起こったり、軟骨が曲がってしまったりして、治療が大変になってきます。
 運が良ければ、手で押して戻る場合もあるのですが、戻らなかったり、すぐに再脱出をしてしまう場合には、手術で整復することが必要です。
 昔はしゅん膜腺を切り取ってしまう手術も行われていたのですが、
しゅん膜腺は涙を作る大切な腺であり、切除してしまうと約半数がドライアイになってしまうと報告されているため、獣医学的には、「切り取る手術は行うべきでない」とされています。
 そのため、埋没して元の位置に納める「
ポケット法」という術式で、当院では治療を行っています。

 術後も腫れはしばらく続きますので、腫れが引くまでは目薬を差しておくことが必要です。また、ひっかかないように、エリザベスカラーで自傷を防ぐことも必須です。
 数ヶ月してから再発してしまうこともなくはないのと、片方がなった子では、もう片方もなってしまう可能性があるため、注意してみておくことが必要です。
 特に予防法などはないのですが、なったら、
早めに治療を受けないと予後に影響するため、早め早めに動物病院で診てもらった方が良い病気です。