猫の肥満細胞腫の手術

  猫の背中に小さなしこりができたということで来院です。
 しこりを針で突いて細胞診をしてみると、肥満細胞という細胞がたくさん見つかりました。
 肥満細胞腫は、浸潤性が高く、放置しておくとタコ足状に広がって行くため、切除しても再発が高率で見られることがある厄介な病気です。
 幸い、小さな段階で発見することができましたので、根治を目指して手術をすることにしました。

  しこり自体は小さいのですが、根こそぎ取らないと、再発してくる可能性がある要注意の腫瘍です。
 マージンを2cm取り、しっかりと取り切ります。

  切開ラインをメスで切ったのち、ハサミでした方向に向かって切開していきます。
 真下に向かって、筋膜までズドンと掘り下げることが最重要です。
 底辺が円形の切除になってはいけません。
  筋膜に達するまでさらに切除を進めていきます。
  筋膜は強固な結合組織のため、腫瘍細胞の侵入を食い止めるバリアになっています
 筋膜を一枚剥ぐ形で切除を行えば、腫瘍細胞を取り残す可能性が極めて少ないとされています。
  切除が終了しました。
 良性腫瘍ではここまで切除をする必要はありませんが、肥満細胞では、マージンを最低2 cm(場合によりもっと)取って切除することが推奨されています。
  皮下織を縫合し、皮下のデッドスペースをなくします
 皮下織を縫合した時点で、皮膚はだいぶ寄ってきます。
 皮膚を縫うだけだと、デッドスペースに漿液がたまってきます。
  皮膚を縫合したら手術は終了です。
 幸い胴体だったので、無理なく寄せることが できました。
  足や顔だった場合はこうはいきません。
 術後の組織検査の結果、肥満細胞腫であったことが確認されました。
  肥満細胞腫は、腫瘍の詐欺師と呼ばれるほど、多様な見え方をする腫瘍です。
  良性腫瘍かな?と思って調べてみると、実は肥満細胞腫だったということもしばしばです。  そのため、しこりが小さいから様子を見よう、というのは推奨されません

  また、肥満細胞腫が怖い注意事項として、細胞内顆粒を放出して、出血傾向や突然死などを起こすことがあります。
  浸潤性も高く、大きくなったものは極めて完全切除が難しくなりますので、小さなしこりでも様子を見ず、まずは動物病院で診察を受けることが推奨されます。
 細胞診の重要性というものをしみじみ感じさせられる腫瘍の一つです。