犬の足先の腫瘍手術

 犬の足先に腫瘍ができたということで来院です。
 手術をすることになりましたが、足先というのはそのまま切って縫おうにも皮膚の余裕がないため、皮膚移植や転移術などが必要となったり、大変なことが多い手術です。
 今回は、飼い主さんと相談した結果、皮膚を上からスライドさせてくる術式で手術をすることになりました。

 術前の手の先の腫瘍です。
 ちょうど関節の上に、大きなしこりができています。

 腫瘍を残さないよう気をつけながら境界を切開して行きます。
 出血は電気メスでコントロールします。
 しばらく切って、血を止めて、ということを繰り返し、少しずつ腫瘍を切除して行きます。
 腫瘍が切除されたところです。
 大きな出血もなく、無事取ることができました。
 切除したところに大きな欠損ができましたので、問題はここをどうやって埋めるかです。
 まず、皮膚の上側にたくさんの小さな切開線を作りました。
 そしてその後、皮下組織を分離し、皮膚を寄せてこられるようにします。
 皮膚が無理なく寄るように、切開線を調節しながら、皮下組織を縫合し、寄り具合を見て行きます。
 皮下組織を縫合した時点で、大きな欠損は埋めることができました。
 皮膚をナイロン糸で縫合して手術は終了です。
 大きなひとつの欠損がなくなり、その代わりに小さな欠損がたくさんできています。
 小さな欠損の上に、アイプクリームという上皮再生を促す薬を塗り、そのうえにサランラップ包帯をします。
 サランラップの上はバンテージで固定し、保護します。
 本人にはエリザベスカラーをしておいてもらい、なめないように気をつけておいてもらいました。
 7日後には上皮がそれぞれの穴の中に入り込み、ずいぶんきれいになっていました。
 15日後にはほぼ傷が上皮で埋められ、傷は治っています。
 大きな欠損の部位もきれいになっていましたが、ちょっとなめているとのことで、糸はほとんど取れていました。
 足先の腫瘍切除の場合、体幹から皮膚を移植してきたり、上腕から皮膚を転移させてきたりと、術式や術後の管理が大変になることがあります。
 今回は、「大きなひとつの傷を小さな多数の傷にして、再生を促す」というアイデアで、早く、きれいに治すことができました。
 この術式は、応用できる範囲も広そうですので、機会があればまた使っていきたいと思います。