冬場の弱った鳥、動物病院はどう対応すれば良いのか


野生の鳥の保護というと、初夏の頃が一番多いのですが
(ほとんどは誘拐だったりしますが)、
今の時期でも時折、野生の鳥が落ちていましたと相談を受ける事があります。

昔は特に冬場でも普通に保護して預かったりしていたのですが、
最近はつい野生の鳥だと身構えてしまいます。

というのも、皆さんご存知の通り、
「鳥インフルエンザ」を持っていないかという問題があるからです。

鳥インフルエンザは、鳥類一般にうつりますので、
渡り鳥だけでなく、どの種類の鳥にでも発生する可能性があります
(鳥類の中で、一番気をつけないといけないのは水鳥と猛禽類と言われています。
 水鳥は健康でも普通にウイルスを保有しているそうですし、
 猛禽類は他の鳥を捕食するので、ウイルスへの感染の機会が多いからです
 一方、雑穀を主食とする様な一般の野鳥は、感染の機会は少ないと言われています)。

初夏であれば、巣立ちの時にまだ飛ぶのがへたくそな鳥が、
人間に捕まえられたり、怪我をしたりして連れてこられる事が多いのですが、
冬の鳥の場合は、鳥インフルエンザが感染していて、
それで弱っている可能性があります。

あからさまに不振な倒れ方をしている、という場合は、
見た目でおかしいと感じると思うのですが、
交通事故で車に接触した、という様な場合でも、

「元気だったら車になどにはぶつからなかったのに、
 ウイルスに感染してふらふらしていたから事故にあってしまった」

という可能性もあります。

したがって、弱って倒れていたら気をつけないといけないけれど、
怪我の場合はそのまま連れて来てもらってok、
という線引きは厳密には不可能です。
ウイルスかどうかはぱっと見では分かりません。

ウイルスに感染して発症した場合、4~5日以内に死亡すると言われていますが、

ウイルスに感染して弱り、死ぬ前の状態のときに、
人間が拾って病院に連れて来る、

という可能性もあり得ます。

ウイルスに関しては、いてから慌てても遅いので、
弱っている野生の鳥を見たときは、
「ウイルスを持っているかもしれない」
と、意識はしておく必要はあると思います。

そのため、冬場は鳥が倒れて行ったからと言って、
そのまま連れて来てもらうというのも怖いです。

もし、ウイルスに感染している鳥を連れてこられて保護してしまうと、
それは「鳥を保護した」、ということよりも、
「ウイルスを抱え込んでしまった」、
という事になってしまいます。

養鶏場では一旦発生すると、半径300m以内は立ち入り禁止で、
鳥の移動も禁止、ということになるのですが、
もし仮に、動物病院に連れてこられた鳥がウイルス保有鳥だと発覚した時にどうなるか、
ということは、まだ決まってはいないようです。

海外でも、鳥インフルエンザに感染して亡くなっている人は、
だいたいが自分の家で鶏を放し飼いにしていたりして、
ウイルスと濃密な接触機会がある様な場合ですので、
野生の鳥を保護して来て、それに触れて来たからと言って、
それですぐに感染してしまうとか言う可能性は低いとは言われています。

ただ、鳥が落ちていた時に、それをそのまま連れて帰って来て家の中に入れる、
というのは、あまり好ましくはありません。

今のところ、「冬場に野生の鳥を見つけた場合のガイドライン」というものがないため、
動物病院によっても、指針も違うところだとは思うのですが、
僕としては、動物病院に直接連れて来てもらう、
というのも、お家で濃密な接触のもと世話をする、
というのも、どちらもあまりよろしくないことだと思います。

僕としては、そういう問い合わせがあったときには、
家畜保健衛生所に連絡してもらうようにしています。
そして、ウイルス検査をしてもらって、それで陰性となったあと、
それから初めて"保護"の対象となるのかなと思っています。

検査をしてもらう場合も、
検査センターに連れて行って検査してもらうのではなく、
そのまま検査の人に来てもらって、その場で検査してもらう、
というのがベターです
(ただ、ちいさな鳥では、簡易検査をしても陽性はほとんどでないそうです。
 以前京都府で鳥インフルエンザが発生した時、
 カラスでは陽性反応が出た個体がいたものの、
 スズメでは数百等検査をしても、まるきり陽性反応が出なかったそうです。
 これからウイルスがいないと言いきれるのか、
 それとも簡易検査の限界なのかは不明です)。

家畜保健衛生所の人とこの間話をしたときも、
やはり鳥インフルエンザには気を使っているという事でしたが、
「野生の鳥は、どこにも部署がなく、
 いわば想定外ですので、各所と対応の仕方を協議中です」
ということでした。

家畜保健衛生所も、養鶏所などの鳥を見るのが任務ですので、
野生の鳥の相談を受けるというのも、本来は想定外だとの事です。
野生の鳥を触った人は、養鶏場の人からは、
「あんたはうちに来ないでくれ」
と苦情を言われるそうです。

日本の役所は縦割り行政ですので、
こういう想定外のことが起きた時に、
対応の仕方が宙ぶらりんになってしまっているようです。

とりあえず、野生の倒れている鳥を見つけたときに、
まず気をつけなければいけない事は、
何よりかにより、

いきなりむやみに触らない

ことである様な気はします。

まず行政(これがはっきりしていないのですが)に連絡をして、
検査をしてもらい、鳥インフルエンザの否定をしてから初めて、
保護するなり、病院に連れて行くなりの選択肢を取るのがベストだと思いますが、
検査をする事ができない状況であれば、
直接触らないように気をつけながら箱に入れるなどして、まず隔離して、
保温するなりして様子を見る事だと思います。

弱っていた鳥を見つけたから家に連れて帰り、
一緒に添い寝をして様子を見る、
というのは避けておいた方が良いと思います。

冬場の鳥の保護と言うのは、「かわいそう」だけですみません。
鳥インフルエンザにかかっていた鳥を家に連れて帰ってしまった場合には、
しゃれになりませんし、おそらく新聞の第一面を飾る出来事になると思います。
家族も含めて、接触のあった人がまとめて隔離される可能性も十分考えられます。

実際に野生の鳥から直接感染する可能性はものすごく低いとは言われていますが、
ウイルスに接触していたなら、まちがいなく行動を制限される事にはなると思います。

「同じ地域で出たら注意をしよう」
と考えてしまうかもしれませんが、
相手は地面を歩く動物ではなく、空を飛んで移動する動物です。
しかも、ウイルスを媒介しているのは、
長距離を移動している渡り鳥ですので、
日本のどこで、いつ起きるか分かりません。

隣りの韓国でも、つい先日の1/5に弱毒型のインフルエンザが発生した、
とのニュースをしていたばかりですので、
日本でもいつ発生してもおかしくありません。

一旦発生したら、とたんに大騒動になる大問題なのですが、
鳥はそこいら中に普通にいるだけに、
あまり意識もされていないのが現状です。

何が問題かと言えば、
「担当部署がない」
ため、ガイドラインもなく、一般の人への啓発もできていないという事です。

初夏の鳥はともかく、冬場の鳥は保護する時には気をつけないといけません。
鳥インフルエンザに関しては、公衆衛生的な意味合いがありますが、
「野生鳥獣の保護」と「公衆衛生的な問題」とでは、
公衆衛生の観点の方が上位に考えなければいけない問題です。

一番怖いシナリオは、

鳥インフルエンザ発生→養鶏場に集団発生、豚にも感染→
ウイルスが増殖、新型インフルエンザ発生

と言うものだと思うのですが
(トリとブタが一緒にいる様な場所が一番要注意です)、
新型インフルエンザが発生すれば、
パンデミックになって大パニックになる事が恐れられているだけに、
瀬戸際で接触する機会のある立場のものとして、
注意して行きたいところです。

それにしても、小動物病院に対しては、
野生の鳥の問い合わせがあった時にどうするべきか、
というガイドラインは一切なかったりします。

動物園などが二次救護施設になっている場合、
冬場はいきなりの持ち込みはしていない事が多いと思うのですが、
一時救護施設としての動物病院に鳥が持ち込まれて来た場合に、

とりあえずそのまま病院で預かってください。
鳥インフルエンザであれば、4~5日たたずに死ぬので、
4~5日しても生きていたら連れて来てください。
鳥インフルエンザだった場合?
それは大問題なので、病院は閉鎖となって、
みんな隔離となりますけど、その時は運が悪かったと思って諦めて下さい。

なんてことがガイドラインとなったら、
一時救護施設としての立場としては、たまったものではないというところです。

冬場でも野生の鳥は病院で普通に救護してくれというのは、
かなり怖いガイドラインの様な気はします
(状況、症状と鳥の種類にもよると思いますが)。
少なくとも、病院がリスクを背負わされすぎている様な気がします
(かといって、4~5日一般家庭で見てから病院に連れて行く、
 というのもリスクがありますし、治療の時期も失ってしまいます
 鳥インフルエンザの話を突き詰めると、
 "冬場の鳥は救護対象としない"という結論になってしまうのですが・・。)。

ウイルスは、一般の野鳥同士では感染力は低いとは言いますが、
普通に連れてこられて死んでいる場合にも、
実は鳥インフルエンザのウイルスを持っていたのだけども、
誰も気づかず、感染も広がらなかったので問題になっていなかった、
という場合も、おそらくあったであろうという様な気はします。

「野生の鳥はウイルスを持っている可能性がありますので気をつけましょう」
とは、厚生労働省自身が出している指針です。
(3)鳥インフルエンザに感染しないために
○ 野鳥からの感染防止
野生の鳥は、インフルエンザウイルス以外にも人に病気を起こす病原体を持っている可能性があります。日頃からつぎのことに注意しましょう。
■ 衰弱又は死亡した野鳥又はその排泄物を見つけた場合は、直接触れないこと。もしも触れた場合には、速やかに手洗いやうがいをすること。
■ 特に、子供は興味から野鳥に近づくおそれがありますので注意しましょう。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou02/index.html

「野生の鳥でもほとんど大丈夫なので気にしないで診てあげてください」
と言われても、国民に対して上記のことを言っている以上、
どうしてもこちらも心配になってしまいます。

社会に対してのリスクはあるけど、それには目をつむって救護をしよう、
ということでいいのか、というのはよく分からないところではあります。

結局、野生の鳥にどれだけリスクがあるのか、というが重要なのですが、
それは誰にも断言はできない事だとは思います
(統計的な可能性の話はできると思いますけれども)。

「ぐったりした鳥を連れてこられる」というシチュエーションは、
いつ発生してもおかしくないだけに、
冬場の野生の鳥の扱いに付いても、
統一した対応の仕方のガイドラインを作って欲しいと願います。


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