椎間板ヘルニアという病気


 動物病院にはいろいろな病気が来ます。
 その中には、治りやすい病気もあれば、治りにくい病気もあります。
 その中でも、なかなかにやっかいで、獣医師と飼い主さんのいろいろな思いが入り交じる病気が、「
椎間板ヘルニア」という病気です。

 椎間板ヘルニアは、「
軟骨形成不全種」という犬種で発生しやすい病気で(ハンセン1型)、脊椎と脊椎の間にある椎間板という部分が脊髄側に飛び出るために、神経を圧迫し、後肢の虚脱、麻痺などの神経症状を起こす病気です。
 もしかすると、「たかがぎっくり腰」とお考えになる方もいるかも知れませんが、実際には、ダメージを受けた脊髄が壊死して、動物が死亡してしまうこともたびたびある怖い病気です。

 この病気の嫌なところは、
1.
若い年齢(好発は3〜6才)で、突然おこる
2.
後遺症として、半身不随になる可能性がある
3.
きちんと治療したとしても後遺症が残る可能性があり、予後の予想がつきにくい

 という点です。
 昨日まで元気に走り回っていた愛犬が、突然半身不随になってしまったとしたら、飼い主さんのショックはどれだけ強いことか、うかがいしれません。
 時には、自分の飼い方が悪かったからかと、ご自分を責めてしまうかも知れません。
 でも、それは、
飼い方が悪かったからではありません(肥満やジャンプ運動は良くありませんが)。
 何より、
遺伝として、そういう要因を持ってしまっているからです。

 発病後どうなるか、つまり後遺症状が残るかどうかは、
脊髄のダメージ具合と、圧迫を受けていた時間によります。
 軽度のヘルニアで、重度の神経症状を伴っていない場合は内服治療で良くなることもありますが、重度のヘルニアで、深刻な神経症状を伴っている場合は手術が必要になります。

 手術の場合は、ヘルニアの起きている場所を同定して、そこの脊椎を削り、圧迫を起こしている
飛び出した椎間板物質を取り出し、神経の圧迫を解除するために、椎弓という脊髄を覆っている脊椎の骨を削ります
 手術はヘルニア発生後、直ちにしないといけない(重症時に、発生後
48時間以上経過してから手術した場合の予後は、深刻〜絶望的です)のですが、直ちに手術したとしても、神経機能の回復については正確な予後の予想はできません
 一般には、深部痛覚(指の間をぎゅっとつまんだときに痛みを感じる)時には、歩行できるまで改善できるのが約5割、深部痛覚がなくなっている場合には1割以下、と言われています。

 手術をした後は、テレビドラマなどだと、人のお医者さんが、「後は本人の歩きたいという思い次第です・・」なんてことを言う場面なのかも知れませんが、手術した獣医さんとしては、なんとか歩けるようになってくれるよう、祈るばかりです。
 手術直後はまだ神経機能が回復していなくても、半年くらいかけてゆっくりと機能が戻ってきたという話も聞きますので、術後もあきらめずにリハビリを続ける必要があります。

 いかんせん脊髄の機能については、回復の度合いが症例毎に様々ですので、予想がつきません。
 昨日まで元気に走り回っていた動物が突然半身麻痺になってしまう病気ですので、飼い主さんの心中を考えると、心底せつないような、胸を締め付けられるような気持ちになります。
 特に、小さなお子さんがいらっしゃるようなときにはなおさらです。

 飼い主さんの望みは、「
また歩けるようになって欲しい」という、それだけであると思います。
 別に、動物を飼う人は、「難しい病気を、すごい治療で治してもらう」ために動物を飼っているわけではありません。
 全ての人は、「
愛する動物と、幸せに過ごしたい」だけであり、獣医師としても、飼い主さんと動物に「幸せに過ごして欲しい」と、それだけを望んでいます。

 ヘルニアなんてやっかいな病気がこの世になければそれが一番いいのですが、現実に一定の確率でおこってしまう病気ですので、不幸にもなってしまった場合には何とかまた歩けるようになってもらえるよう、獣医師としてはやれるだけのことを精一杯やるのみです。

 椎間板ヘルニアの手術は、本人の「歩きたい」という思い、飼い主さんの「歩いて欲しい」という思いがたくさんつまっている手術です。
 そして、その願いが何とか叶えられるよう、獣医師も切なる願いを込めて行う手術です。

 「
願いよ、届け!!
 それが、手術が終わったときの、僕の心の中のすべてです。
 100%きちんと治療すれば100%良くなる病気であれば、こちらも心が救われるのですが、そうでもないところが、ますます胸を締め付けられるところです・・。
 


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