短頭種の麻酔は別格


 先日、短頭種の手術がありました。
麻酔と言うのは、いつでも気の抜けないものですが、
中でも短頭種の場合は、その緊張度合いは別格となります。

と言うのは、短頭種は、
麻酔のリスクが他の犬種よりもはるかに高いからです。

実際、麻酔中の死亡事故と言うと、
短頭種であったという話がけっこう多いです。

考えてみれば、元々オオカミだった犬があの形になったわけで、
鼻や喉のあたりの構造に、かなり負担がかかっている事が想像されます。

短頭種では、普通に生活しているだけで、
がーがーと苦しそうに呼吸している子もしばしば見られます。

短頭種と言うのは、

・鼻の穴が狭い
・気道の入り口の部分を垂れ下がった肉が覆っている(軟口蓋過長)
・気道の入り口の部分が、変形を起こしている場合がある

などの理由で、普段生きて呼吸をしているだけでも精一杯、
ということもしばしばです。

麻酔をかけるという事は、ただでさえ呼吸抑制をかける傾向があるわけで、
普段の呼吸で精一杯の犬は、予備能力がありませんので、
麻酔の危険性は、鼻の長い犬種よりも桁違いに高い事になります。

なかでも恐ろしいのは、麻酔のかかりかけと覚めかけのところです。
麻酔がかかっている状態では気管チューブが入っているため、
呼吸はできるのですが、その前後の、
気管チューブを入れる前と、抜いた後のあたりは、
特に気をつけなければいけません。

麻酔をかけはじめてすぐになくなった、という話を耳にする事もありますが、
もともと呼吸困難の犬で麻酔をかけて行くと、
しだいに舌が紫色になって行ってチアノーゼになって行く、
という可能性もあります。

低酸素症を防ぐために、
鎮静剤を入れたら、完全に麻酔をかけるまでに、
マスクで酸素をかがせておいて、チアノーゼを防ぐことが推奨されています。

覚めるときも、実は一番要注意です。
気管チューブが入っている時には呼吸は出来ているのですが、
抜いた瞬間に気管の入り口が塞がってしまい、
呼吸困難になってしまう可能性があります。

そのため、気管チューブを抜く時には、
十分に麻酔がしっかり覚めて来てから抜く必要がありますので、
眼が開いて来て、顔が動いて来てと、
他の犬種ならもう抜くところでも、
もうしばらく待って、十分に覚醒して来てから抜かなければいけません。

もし、軟口蓋過長が重度で、チューブを抜いた後にリスクが高く、
今後の生活にも影響しそうであるなら、麻酔がかかっている間に、
気管の入り口を塞いでいる過長の部分を一緒に切除しておく、
という選択肢も考慮します。

獣医師にとっては、「短頭種の麻酔が怖い」というのは常識で、
短頭種の麻酔の時には、他の犬種の麻酔と比べて、
何倍も気を使い、緊張するのですが、
飼い主さん自身はあまりそういう意識はないらしく、この間も、
「ただの避妊手術だから大丈夫ですよね?」
とおっしゃっている飼い主さんがいました。

そのため、短頭種の麻酔の特殊性を述べ、
だからこそ怖く、だからこそ気をつけなければいけないんです、
ということを念入りに説明しておくと、
ご理解いただけたようでした。

今のところは、短頭種で事故が起こったという事はまだ起きていないのですが、
事故の話は時折耳にしますし、
僕もひやりとした事はしばしばあります。

今まで大丈夫でも、これからも大丈夫というわけではないですし、
リスクが高いのは間違いないですので、
今後も注意しながら、しっかりとご理解いただけるよう説明しながら、
麻酔をして行こうと思います。


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