数ヶ月の延命なんて・・と言われたとき


腫瘍などが判明し、抗がん剤の治療するということになったとき、
治療法の説明をしていると、たまに飼い主さんから、
「抗がん剤で治療するとして、病気が治るんですか。」
といったことを聞かれる事があります。

これはなかなかに、辛い質問ではあります。
というのも、動物において、抗がん剤などの治療は、
通常、完治ではなく、寛解を目指すものだからです。

完治というのは、がん細胞をひとつ残らず殺す事ですので、
体からひとつ残らずがん細胞がなくなるなら、
それは確かに病気が"治った"ということを意味しています。

人間であれば、発病してからもまだあと寿命まで何十年とありますので、
そこで徹底的にがん細胞を無くし、再発しないようにするために、
完治を目指す事になります。

でも、動物では、発病から寿命までは、長く生きたとしても数年であり、
数十年生きるという事はありません。
また、完治を目指すと、それだけ副作用も多くなります。

したがって、通常、動物医療では、
完治ではなく、寛解の状態を目指す事になります。

寛解というのは、細胞が残っている可能性があったとしても、
病気として発病しておらず、症状が見られない状態の事です。

ただ、寛解状態にまでもっていく事ができたとしても、
中には、また再発をすることもあります。
すると、寿命まで全うさせる事ができず、
治療の途中で、病気によって命を落としてしまう可能性もあります。

抗がん剤のプロトコルにはいろいろありますが、
それぞれの治療方法には、
半年生存率〜%、平均生存日数〜日
という記載がしてあります。

これはそれぞれ、半年後に生きている確率が〜%で、
発病後なくなるまでの平均日数が〜日、ということです。

つまり、抗がん剤を用いても、
完治ではなく、ときに延命をさせる事しかできない場合もある、
ということです。

だから、「治りますか?」
という質問は、とても辛いものがある、ということになります。
「元気になり、状態が良くなる事が期待できます。」
とは言えたとしても、
「治ります。」
とまでは言えないのです。

飼い主さんの中には、
「数ヶ月延命できるだけなのなら、抗がん剤治療なんて・・。」
とおっしゃる方もいらっしゃいます。

僕としては、そう言われた場合、自分が飼い主だったらどう考えるか、
ということを考えながら、お話しする事にしています。

まず、数ヶ月、ということについては、
人間にとっては数ヶ月だとしても、
犬や猫にとってはそれが何年もに相当します。

よくドッグイヤーと表現されますが、
犬の1年は人間の時間で置き換えれば、4~7年に相当します。

もし僕が病気になって、
「治療しなければすぐ死んでしまうけれども、
 治療をする事によって、2年長生きできますが、治療しますか?」
と医者から尋ねられたとしたら、僕は迷わずに、
「治療してください。」
とお願いすると思います。

動物で数ヶ月長生きできるという事は、
人間にとっての何年かを長生きすることができる、
という事を意味しています。

また、治療してあげる事によって、少しでも長生きしてくれれば、
その間に、気持ちの整理と心構えをする事ができますし、
愛する動物に対してさよならをする時間を持つ事ができます。

病気になり、お別れを言う間もなくなってしまったとしたら、
突然ぽっかりと心の中に穴があいてしまい、
喪失感も大きくなってしまいますが、
治療中に、「もしものことがありえる」と覚悟をすることができれば、
もしその時が来たとしても、受けるショックはまだ少なくて済むと思います。

そして、飼い主として、病気になった子になにもせず、
そのままなくなってしまったとしたら、
「あのときに何かしてあげられたんじゃないか。」
「もっとしてあげるべきだったんじゃないだろうか?」
と、後悔と自責の念にさいなまれてしまうかもしれません。

そしそこで、病気と分かった時点で、
動物に対してできることをしてあげられたと飼い主さんが思い、
納得してもらえたならば、
後悔や自責の念は少なくなってくれるのではないかと思います。

だから、もし、「数ヶ月の延命なんて・・」と言われたら、
数ヶ月の延命であれ、それは、動物にとって、飼い主さんにとって、
とてもかけがえのない数ヶ月を与えてくれる可能性があると思います。

治療をするかどうかは、もちろん獣医師が無理強いできる事ではないので、
飼い主さんに決めてもらわないといけないのですが、
いずれの選択をしたとしても、
後から振り返ったときに後悔だけはしないように、
家族でよく相談して、最善の答えを出して欲しいと願います。

動物を飼い始めると、最後の別れを迎える時がどうしても、
一番辛い事であるのですが、
その別れのときに、後悔せずに、
「一緒にいてくれてありがとう」
と動物に語りかけてあげてもらえるよう、獣医師として願うばかりです。



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