「信頼」は相互にしあうものですが


 医者や獣医師を選ぶ時には、信頼できるかどうかをよく考えましょう

とは、近年よく言われるところではありますが、
それはその通りで、僕を含め、医師や獣医師の多くも、
「医療には、医療者と患者の信頼関係が最も大切だ」
と思っている事だと思います。

ところで、信頼関係と言うのは、
お互いが信頼しあう事で成り立つ、
相互の人間関係であるのだと思うのですが、
一般には、
「患者が医療者を信頼できるかどうかで信頼関係が出来るかどうかが決まる」
と考えられている様な気もします。

そこには、”患者側からの視点”は考慮されていても、
”医療者側からの視点”は割合無視されている様な気もします。

信頼"関係"と言う以上、

患者が医療者を信頼し、医療者が患者を信頼して、
それで初めて信頼関係が成り立つ

ものなのだと思うのですが、
「信頼関係において一番大切なのは、
 患者が医療者を信頼できるかだ」
と言われると、
「医療者は無条件に、いついかなるときも患者を信頼しなければならない」
ということなのだろうか、と、素朴な疑問を持ってしまいます。

まじめに仕事をし、飼い主さんと動物の利益を大切に考え行動すると言うのは当たり前ですが、
一方で、僕自身、まじめに仕事をしていても治療費を踏み倒されたこともありますし、
獣医師はしばしば理不尽なクレームや罵倒をされたり、
中には、訴訟をされたり、病院の中で包丁を振り回されて斬りつけられたりした人もいます。

医は仁術である、というのは大切な考え方ではありますが、
その一方、最近の情勢の中で、
医療者にとって、無条件に患者を信頼する、というのは、
徐々に難しい事となってきつつあるのは確かです。

難しい症例で、よかれと思って無理をしたら、
結果、罵倒されたり、訴訟をされたりして終わったとか、
手持ちのない初診の人に、つけで気安く高額治療をしたら、
そのまま二度と来なかった、という事もある以上、
「このまま進んで行くとどう言う結果になり得るか」
「この患者は信頼できる人であるだろうか」
「この人は、こちらに害を及ぼしてこないだろうか」
などということを考えながら、仕事をして行かなければならないというのは、
動物病院をしているものが、日々突き合わせられている現実であると思います。

信頼関係が、相互に信頼しあって成り立つ関係であるとするならば、
いかに患者の側が医療者を信頼してくれたとしても、
医療者の側が、患者側に不信感を持っていたら、
そこに信頼関係は築かれたことにはならないと思います。

「相手を無条件に信頼する」
というのは、美しい事ではありますが、
注意深く仕事をして行かないと、医療者の側にとって、
時に大きなダメージを受ける結果となる可能性があります。

無条件に信頼をする事がリスクを伴う以上、
「信頼できると思った人を信頼する」
ということも、これからは考えて行かなければならないと思います。
(冒頭に出て来た一文は、まさにこのことを言っているのです)。

明らかに信頼できない患者の場合、
医療者が無条件に信頼を持って接していいものかと、
言うのは答えの難しいところではありますが、
医療者にとっては、自分のリスクも考えながら、
"自分にとっての最悪の結果とならないように"ということも、
念頭においておかなければいけないとも思います。

人の医療でも、奈良県南部の産科全滅を始め、
日本全国で医療崩壊へとまっしぐらなのは、
そういった点も基礎にあると思います。

医療者が情熱を持って仕事に当たるのは、
当たり前であり、一番望ましい事です。

ただ、その情熱に不必要に水をかけたり、
燃え尽き症候群で燃えつかせたりしないように、
社会の側も(マスコミの事ですが)、取り上げ方には注意をしないといけないと思います。


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