ネット販売問題、メーカーはどう思っているか


ここ数年、ネットでの動物病院専用品の販売は、
獣医業界でしばしば話題となるトピックスの一つではあるのですが、
動物病院の獣医師以外で憂慮している立場の人たちのひとつが、
他でもない、製造者である「メーカー」です。

メーカーの側も、
ネットで診断を下したわけでもない獣医師が、
自由に不特定多数の人たちに販売しているという事を快くは思っていないらしく、
憂慮しながら見守っているという事です。

なぜなら、メーカーにとっては、
ネットで自由に販売されるような事態が進んで行くという事は、
販売数が減少する方向へとつながって行きかねないからです。

飼い主さんからすれば、
「どこで買おうが一緒なのなら、
 メーカーにとっては一緒なのではないの?」
と思うかもしれませんが、
実際にはネット販売が勢力を伸ばしていけば、
おそらく間違いなく販売数は減少していくことになります。

なぜなら、かかりつけのところで説明を受けて勧められた後、
ネットで買う、ということが当たり前になれば、
多くの獣医師がしだいにやる気をなくし、
そもそも療法食を勧めるという事をしなくなっていく、
という可能性が高いからです。

療法食と言うのは、一般の家電製品などと違い、
その購入を決める前の時点で、
獣医師による診断や選択へのアドバイスというのがなければ、
それを購入するという話になりません。

獣医師からすれば、一生懸命説明しても、
説明をした相手がすぐにネットに行ってしまうというのであれば、
説明をしたり勧めたりするという事自体を、
「あほらしい」(言葉は悪いですが実際そうです)と考えるようになり得ます。

そうなると、ネットで買えるような処置や選択はせず、
ネットではできず、病院でしかできない治療を選んで進めて行くようになる、
と言う可能性は高いと思います。

「ネットに行かれるかな?」と思いながら一生懸命説明をしていても、
報われないと感じ続けるなら、やがて話をする事すら虚無感に襲われるようになるわけで、
誰がそんなことに心とエネルギーを使いたがるかという事です。

ネットで出来る事なら、話はしない、
病院でしか出来ない事であれば、それを第一選択として選んで行く、
となれば、それはネット販売が治療法を決めるようになって行くという事であり、
まさにネット・ベースド・メディスン=「NBM」
という新しい治療概念の幕開けとなります。

アトピーを疑う症例に対して、
ほぼ原価で検査をしてアレルギー食をお勧めしても、
やがてネットで買い始めて病院に来なくなってしまうというのであれば、
そんな検査などせず、療法食も提示などせずに、
抗生剤とステロイドでずるずると処方を続けた方がよほどましだ、
と考える獣医師が出て来てもおかしくありません。

アレルギー食はネットで買う事が出来ますが、
抗生物質とステロイドはネットで買う事が出来ないからです
(ネット販売をしている獣医師は、
 以前こういった薬もネットで自由にバラ売りをしていましたが)。

そうなっていけば、「療法食への入り口」である獣医師の時点で、
療法食に対する説明や推奨というのがなくなってしまいますので、
療法食の購入へと進んで行く蛇口部分が閉められてしまう事になります。

病院では療法食についての話も勧めもされないという事態になれば、
療法食を買いたいと思った飼い主さんは、
自分でネットで調べ、自己責任で買わなければならないということになります。

よほど積極的な飼い主さんであれば、
自分で調べ、自分で考えて買おうとするでしょうけれども、
勧められる事で療法食の購入を検討するはずだった人は、
療法食を買い始める機会を失ってしまう事になります。

動物病院がやる気をなくして療法食を話もしなくなるとなれば、
購入者はしだいに減っていきます。

もちろん、今ネットで買っている飼い主さんがそれを買い続けていれば、
その分は継続で購入されるでしょうけれども、
動物病院が購入を勧めないようになっていけば、
新規の購入者は格段に少なくなって行く事になります。

メーカーでもその事は重々承知して危機感は持っているらしく、
「療法食はかかりつけの獣医のもとで診てもらいながら、
 指示に従って購入して下さい。」
とポスターまで作っています。

本当はメーカー側も、
「ネットでは買わないで下さい。」
と、言いたいという事だそうですが、
そこまで言うと独禁法に引っかかってしまうということで、
回りくどく、長ったらしい文章が書かれたポスターとなってしまっているようです
(今度病院に行ったらポスターを探してみて下さい)。

メーカーとしては、ネット販売している病院への卸しをしないというのは、
独禁法に引っかかってしまうのでそれも出来ないという事で、
今のところ積極的な対策も出来ずに今の状態となっているという事だそうです。

卸し業者の人やメーカーの人たちと話をしても、
10人中10人が
「そうなんですよ。
 みんな困っているんですけれどもどうにもできないんです。」
と、同じような反応です。

みんなどうにも対処できないという事で、
今は飼い主さんの意識に訴えて行く事しか出来ない、
ということだそうですが、
ひとつだけわかっていることは、
今の状態がこのまま進んで行っても、
けして良い未来にはつながりそうにない、
ということです。

(何が一番まずいかと言うと、
 「飼い主さんにとっての利益を考える事が病院にとっての不利益」となってしまい、
 「飼い主さんの利益を考えない事が、病院にとっての利益となる」
 という構造を生んでしまうという事です。
 それは、獣医師が飼い主さんのためを思って純粋に仕事をするという事が阻害されるという事です。
 ネット問題がこのまま進行して行く事により、飼い主さんにとっても不利益な事態になっていきます。
 構造的な問題が出来てしまった状態で、獣医師側にだけ「倫理観で持ちこたえろ」と要求するのは無茶です。)

今後どうなるかはまだ誰にも分からない状態ですが、
良い方向に流れて行って欲しいものだと願うとともに、
獣医師業界全体で、この問題をそろそろ深く掘り下げて考えて行かないといけない時期なのだと思います。


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