カゼって何だ


医療・獣医療では、何だそりゃと言いたくなる様な、
よく分からない名称のものというのがあります。

その中でも有名で、ごく普通に一般名称になっているのが、
「カゼ」という病名です。
カゼという名前は、昔から使われる事もあって、
病名そのもののように使われていますが、
きちんとした医学用語ではありません。

カゼとは、「かぜ症候群」とも言われますが、
主にウイルスが呼吸器感染し、
発熱や咳、鼻汁などの症状を起こす感染性の呼吸器症候群のことです。

正式に診断名を付けようとすれば、
ウイルスの分離・同定をして、ウイルスを確定させれば、
アデノウイルス感染症、ライノウイルス感染症、
などと診断名を付けることができます。

でも、このとき何が感染しているのか、ということについては、
通常はそこまでの検査はしません(インフルエンザなどを疑う時は別です)。

治療法は、病原体が何であれほぼ変わりませんので、
臨床症状から、暫定診断を付けておいて、
一般的な呼吸器の感染症の治療をする、ということになります。

すなわち、お医者さんに「カゼですね。」と言われても、
それは診断(狭義での確定診断)をしてもらったわけではありません。

ケホケホと咳をして病院に行き、お医者さんが「カゼ」と言った場合、
それは、
「何が原因かは分かりませんが、何かが呼吸器に感染して、
 呼吸器の症状を起こしているのでしょう。」
と言っているという事を意味しています。

「カゼ」と言われた時点で、
原因は分からないと言われているということなのですが、
あたかも診断名の様な名称を用いられる事によって、
お医者さんに診断を付けてもらった様な気になっているのです。

僕は、あやふやな診断名というのは嫌いですので、
「カゼ」という診断名はいっさい使わないのですが、
獣医さんによっては、
「カゼ」という病名を好んで使う人はちらほらといるようです。

呼吸器の感染症で症状を起こしているのならともかく、
お腹を下して病院に行くと「カゼ」と診断し、
元気がなくて病院に行くと「カゼ」と診断し、
食欲がなくて行くと・・・、
という風に、何かよく分からない症状の時には、
全て診断名が「カゼ」になってしまう場合も、中にはあるようです。

どうやら、「カゼ」という病名が(そもそも病名ではないのですが)、
"呼吸器の感染症"という概念を飛び出して、
"大した事ない症状を起こしている時の症候群"
にされてしまっているような感じでもあります。

そこまで行くと、「カゼ」というあやふやな名称によって、
あたかも、獣医師がその状態について、とりあえずの診断を下した、
という免罪符か何かの様なものになっているような感じもします。

僕としては、よく分からない症状に対して、
よく分からないその場しのぎの病名を付けるよりは、
その時に考えられる可能性を考えて述べ、
それでも分からない場合には、
「今のところ、原因がはっきりしていません。」
と告げるべきであると思います。

分からないところがある事を述べず、
あたかも診断名を付けたかのように振る舞うと、
患者さんにとって、今後新しい症状が出て来て、
真の病気が明らかになって来た時に、
早期発見・早期治療のチャンスを逃してしまうことにもつながりかねません。

あやふやな症状の時には、確かに大した事のない事も多いのですが、
中には、重大な病気の前触れとして、
あやふやな症状が出て来ている可能性もあります。

もし、そんな時に、「カゼですね」と説明し、
飼い主さんを納得させてしまっていたとしたら、
さらに症状が進んだ時に、
「カゼって言われたし、もうしばらく様子を見ておくか。」
と飼い主さんが判断してしまう可能性がでてきます。
そうすると、獣医師の軽はずみな言動によって、
本当なら受けられたはずの治療のチャンスを逃してしまい、
飼い主さんに損失を与えてしまう可能性があります。

それよりは、分からない時は分からないと言い、
「今のところ、原因がはっきりしていないから、
 また何か変わった事があったら、早めに診せて下さい。」
と一言言っておけば、症状が悪化したとしても、
早期に診察させてもらう事ができますし、
トラブルに発展する事も防ぐ事ができます。

獣医師が「カゼですね」と告げる事には、
なんらメリットはないと思います。
あやふやな症状に、あやふやな病名を付けたとしても、
ろくな事にはなりません。

得られるものがあるとすれば、
症例に対して、とりあえずの診断名は付けたという、
ちっぽけな自己満足と少しばかりのメンツです。

医療訴訟が獣医療においても頻繁になされるようになって来た今日、
あやふやな病名を付ける事は、獣医師にとっても命取りとなる可能性があります。

インフォームドコンセントが叫ばれる今、
いい加減な説明を飼い主に行うということは、
もはや許される事ではありません。

「カゼでしょうか?」
と飼い主さんから尋ねられた場合、僕は、
「動物にはカゼというのはありませんよ。」
と言う事にしています。

あやふやな病名と言うのは、使わない方が無難です。
個人的には、「カゼ」という名称は、
獣医療では簡単に使うべきではないと思います。



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