感染防止を優先するか、飼い主さんの感情を優先するか


病院で起こる状況のうち、困った事になる瞬間のひとつが、
「待合室が混み合っている時に、
 感染症の動物がやって来た時」
です。

犬のパルボやジステンパーなどは、
今はもうごくまれにしか発生していませんので、
一番起こる確率が高い病気として考えられるのは、
「猫の伝染性鼻気管炎/カリシウイルス感染症」
です。

猫の呼吸器にヘルペスウイルスやカリシウイルスが感染すると、
目と鼻がぐしゅぐしゅになり、とても激しくくしゃみをすることがあります。

猫がクシュンとするたび、鼻汁と一緒に、
大量のウイルス粒子が環境中に飛び散ります。

また、飼い主さんの靴や衣服、手足には、
目に見えなくともウイルスが付着している可能性があります。

動物病院は、動物の病気を治療するところですが、
病院にとって大切な事のひとつは、
「健康に来た子に病気をうつしたりさせない」
ということです。

感染症にかかっている子に対して、待合室で普通に待っていてもらったり、
飼い主さんが病院中をあちこち触ったりすると、
ウイルス粒子を病院に広めてしまい、
その後やって来た動物にウイルスを感染させて、
健康な子を病気にさせてしまったりする可能性があります。

そのため、明らかに感染症の子の場合、
動物と飼い主さんには車の中で待機してもらっておいたり、
診察前後の移動は、スタッフが移動を指示してから行ってもらったり、
通常の飼い主さんとは違う移動をしてもらうようにしています。

そして、移動してもらった後には、
飼い主さんが移動した後や触った扉のノブなどを、
速やかにふきんで拭き、ウイルス粒子を取り除くようにしています。

院内感染を防ぐという事からは、
この処置が最善だと思うのですが、問題は、
自分と動物が隔離されたり、通った後を消毒したりされたりするのを見て、
「バイキン扱いするのか!」
と憤慨する可能性があると言う事です。

一番良いのは、あらかじめ電話をいただいておいて、
指定した時間に来てもらって診察をさせてもらうという事ですが、
診察時間にいきなり来られた場合、
他の動物と飼い主さんに迷惑をかけないように気を使わなければいけません。

ただ、感染症の動物を連れて来た飼い主さんを
不愉快にしないようにも気を使わなければいけないという事で、
そのバランスが難しいところです。

感染症の動物を連れて来た飼い主さんを、
一切不愉快にさせないようにしようとすると、一番簡単な方法は、
その動物と飼い主さんを感染症扱いするという事を一切せず、
来てもらったら、普通に受付をして、
普通に待合室で待ってもらい、処置をして、
普通に待合室に戻ってもらって帰ってもらうという事です。

ただ、それでは、待合室や病院内は重度に汚染されてしまい、
他の動物に、間違いなくウイルスを移してしまいます。

そうであれば、診察時間に感染症の子がやって来た場合は、
移す可能性の話を説明し、納得してもらった上で、
スタッフの指示にしたがっていただくという事になるのですが、
いつも理解してもらって納得いただけるかと言うと、
そうとも限りません。

この間も、自分たちが隔離扱いされた事に憤慨なさったのか、
不愉快そうにしている飼い主さんもいらっしゃいました。

プリントも渡して、なぜ特別に指示に従っていただかないといけないのか、
ということを説明してはいるのですが、
全ての人に筋を理解してもらうというのも、なかなかに難しいものです。

「バイキン扱いするのか!」
と言われても、ウイルスはバイキンよりも粒子が細かく、
環境中でも長生きしていますので(カリシの場合)、
バイキンなどよりも、比べ物にならないくらい厄介です。

"バイキン扱い"が嫌であるなら、ワクチンをうっておいて欲しかった、
というところではありますが、
僕の地域では、猫にワクチンをうっている人の割合は、
まだかなり低く、感染症にかかってから、
ぐずぐずになって、病院にやって来るという人も多いので、
これからもこの悩みは尽きる事がなさそうです。

ノラネコの三割はウイルスを持っていると言われているので、
猫とウイルスの関係には困ったものです。


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