獣医療と自己決定権
人間の医療でも生命倫理の考え方が導入されてきたのはごく最近の1960年代以降のことです。
かつては患者は医者に診ていただくもので、言われたとおりにしていればよいという考え方でした。
知識や判断力は劣るんだから自分で選ばせてもそれがいい結果につながるとは考えられないと言う発想です。判断は患者でなく、医者が行うものでした。
時代は移り、成人病や高度治療などいくつもの
選択肢
がある病気が増加し、また
患者側の知識や意識も向上
しました。そこから、
自分の人生は自分で選択する
という
自己決定権
が見直されるようになりました(自己決定権自体は140年前からある考え方です)。
ただ現在の風潮は、それまでの「医者の言うとおりにしていればいい」というテーゼに対してのアンチテーゼとしての「患者の決定は患者が決める」という流れであるような気もします。
これが真に正しいかどうかは歴史の裁定を見なければなりません。
なにかあれば即訴訟というのが当たり前になるなら、それはそれで
患者と医師の間の信頼感
が築かれる妨げとなる可能性があります。
アメリカでは何十年と働いても一回の裁判で全ての財産が吹き飛ぶことが普通に起きているそうです。そこそこ財を成したら早めにリタイアする人が多いとも聞きます。優秀な医師が診療の場から居なくなることは、患者にとっても社会にとっても損失です。
患者と医師は争いあう対象ではなく、お互いに協力してより良い医療・より良い社会を築いていくのが理想だと思います。
社会全体の意識が向上するのが欠かせませんが、
テーゼとアンチテーゼを乗り越えた次の段階のより良いあり方
を模索していくことが大切だと思います。
獣医療も医療の後を追うような流れをたどっています。
違うのは、
治療を決めるのは本人ではなく、飼い主である
と言うことです。
人間では本人が判断能力を有しない場合は代理として、主に親族が本人の利益になるよう判断を下すとされているようです。
明らかに本人の利益にならない決定を親がしようとする場合には親権を剥奪される可能性もあります(状況によりですが)。
動物の場合には法的には人間ではなく(当たり前ですが)、
モノ扱い
です。
権利は人間社会の中でのみ通用するものです。が、
人間社会の中で暮らす者には法的に権利を保障されても良いと思います
。人間と共に暮らすペットに対して、
法的な規定がまだ足りていない
気がします。
飼い主さんが代理人としての人間の生命倫理(のうちのインフォームド・コンセント)の考え方を適用するならば、
獣医師側には十分な説明と共に選択肢を示す必要があり、飼い主さんは納得した上で自分たちにとって最善と思われる選択をする
と言うところでしょうか。
飼い主さんが代理人であるならば、第一に考えるのを本人の利益にすべきなのか、それとも飼い主さんの都合を優先させても良いのかという議論は出てくるかと思います。
ただ、いずれにせよ言えるのは獣医師側には決定権はこれっぽっちもありません。選択肢が複数ある時にそれを隠し、有無を言わさず唯一の方法として押しつけることは許されません。
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