エコーを買いたい!


 世の中の多くの人は、「獣医という職業はさぞかしもうけているのだろう」という考えを持っているようです。
 しかし、その認識は間違いです。

 たしかに、中には、儲かってウハウハの人も確かにいるかもしれません。
 でも、たいていの獣医さんは、
新しい設備投資や勉強のための投資にてんてこまいです。
 稼いだお金を、より“先に進む”ことに振り向けようとすると、とても大変です。なんといっても、
道に終わりはないですし、新しいものを導入すると、次はこれを買いたいという風に、欲しいものが新しく次から次へと出てきます

 獣医師は、
飼い主さんからいただいた治療費で、生計を立て、次の投資を行っています
 実際には、大きな機器を購入するときには銀行からお金を借りて、まず機器を買い、毎月その返済を行うというかたちになりますので(もしくはリースです)、
大きな投資をするほど、獣医さんは借金まみれになっていきます。僕もすでに借金まみれで、しかも今のところ開業時よりも着実に借金の額は増えていっています・・。

 普通のサラリーマンなら2〜3回は自己破産してしまいそうな借金を抱えて、それでも何とかやっていけるのは、ひとえに飼い主さんからいただいている治療費のおかげです。
 治療を行って治療費をいただくのと、その機器を用いて飼い主さんへの「治療費の還元」を行うのとは、表裏一体です。
 治療費いただかないと、機器の維持ができないですから。

 獣医師は、
いただいた治療費を用いて、より病院が充実していくように投資して行かなくてはなりません
 そして、
導入した機器を用いて、そこから利益を上げ、次の投資をして行かなくてはなりません

 そこで考えどころなのは、
機器を導入するとして、投資した金額に見合った額の収入を得ることができるかどうかです。
 機器は、なんでもかんでも導入すればいいというものではありません。
 新しい機器を導入したら、
それのために毎月の返済をしなくてはならなくなります。

 機器を入れるだけ入れて、それに見合った収入が得られないのであれば、行き着くところは「
病院の経営破産」です。
 毎月の返済額が200万円だったとして、売り上げが100万円しかなければ、病院の運営を続けることができないからです。

 病院で用いる機器には、
毎日の診療で用いる使用頻度が多く、従ってペイしやすいものと、使用頻度が少なく、ペイしにくいものとがあります。
 病院が機器を導入する際には、
投資金額に対しての、見込まれる売り上げを見極めながら導入する機器の選択と決断をしていくことになります。

 レントゲンや血液検査の器械などは使用頻度が高いです。
 したがって、導入しても、回数を多く用いれば、そこから投資金額の回収が行えますので、元は取れます。

 しかし、超音波や半導体レーザー、CTなどの高度医療機器は、値段も高く、それでいて使用頻度が少ない部類です。
 レントゲンなどの機器よりも
返済は多いのに、売り上げは少ないという可能性が高いです。
 売り上げを単純に増やすために、1回あたりの使用料を高くするというのも限度があります。あまり高いと、使用する頻度が下がって、「せっかく導入したのにさっぱり使わない」ということにつながりかねません。

 高度医療機器は、よほど紹介がバンバン来て、単身での回収が見込まれるとき以外は、
その機器の返済を、他の利益で穴埋めするという事になります。ようするに、余裕がないと買えないわけです。

 従って、病院の投資スケジュールとしては、レントゲン、血液検査、麻酔モニタなどの「
無いと困るもの、回収が見込まれるもの」から開始して、診察件数が増えてきたら、より使用頻度の低いあった方が良いもの」へと進んでいきます。
 
診察件数が増えれば、機器の使用頻度自体も増え、回収が見込めるようになるからです。

 それでも、
診察件数が増えようが、回収の見込みが少ない部類の機器もあります。
 ようやくタイトルにたどり着きましたが、
カラードプラーの使える超音波診断装置というのも、その部類の機器です。
 カラードプラーエコーというのは、血流の流れを観察・計測して、心臓の機能や、弁の異常の程度を調べることができる器械です。

 僕は開業時から、それなりのエコーを持っています。
 まあ、これでもフィラリアのベナケバ・シンドロームの診断をしたり、肝臓や腎臓の状態を診たり、膀胱結石を診断したりと今までも充分役に立っています。
 カラードプラのないエコーでも、一般診療には充分用いることができますが、「
それ以上のこと」をしようと思ったら、低グレードの機器ではできないのです。

 僕がカラードプラエコーにこだわるのは、僕が開業する前から欲しい欲しいと思っていたからです。
 僕は、大学時代は研究室で心エコーの勉強をしていました。そのために、文字通り雨の日も雪の日も、エコー班の仲間と共にエコーの練習をし、技術を身につけ、勉強をしてきました。その時お世話になっていた教授は、日本で一二を争うくらいエコーの分野では有名な先生です。
 以前勤めていた病院にはカラードプラエコーがあり、心エコーの検査はまかせていただいていました。
 練習もしましたし、勉強もしました。心臓の奇形の一通りは、診断も付けられますし、軽度〜重度の診断も付けることができます。

 心臓のエコーを使いこなせる獣医さんは、そうはいません。腹部の観察や、腫瘍、肝臓、腎臓などは診る先生は多いと思いますが、心臓の計測方法を一通り学び、心エコーの詳しい機能まで使うことのできる先生は多くはありません。
 
心エコー検査は、誰でもできる検査ではありませんせっかく身につけた能力と技術、知識を活かすことができないということは、実際もったいないことです。

 ただ、一方で、確実に分かっていることは、病院にエコーを導入しても、「
毎月の返済額に見合うだけの資金の回収はできない」ということです。
 なんてったって、心臓のカラードプラーまで診る能力のあるエコーは、一台がカローラ3〜4台分くらいします。
 リースで借りるとして、毎月ノートパソコンが買えるくらいの返済額を単身でできるかといえば、自信を持って「できない」と答えることができます。

 ただ、自分の持っている能力・技術・知識を活かせないということは、僕にとってとてももどかしいところです。心臓のエコーというのは、間違いなく稀少な特殊技術であり、病院にしても長所にもなりますし、他の先生や飼い主さんにとっても役に立つ技術です。

 
その能力を活かすというメリットが、多大な返済額というデメリットを超え、病院がその負担に耐えられるようになったときが、カラードプラエコーを導入できる時だと思います。

 病院の設備向上に終わりはありません。病院にお金をつぎ込むのを止めるということは、僕の性格的にはずっとなさそうです。
 「
いい病院にしたい」、それが目下の、そして終わりのない、一番の目標です。自分の病院が、日に日に充実していくのを見るのは、獣医師の誰しもにとっての喜びです

 どの獣医さんも、いろいろ思い悩みながら、医療機器を入れています。それも知ってもらえればと思います。


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