ペットブームから、ペット文化へ
空前のペットブーム、と言われるようになって久しいですが、その一方で、もうすぐペットブームは去ってしまうとも、ひとつの文化になって落ち着くとも言われています。
ペットブームとペット文化の違いとはどんなものか、そこらへんを考えてみたいと思います。
一般に、
ブーム
とは、
もともと少数の人たちだけに愛好されていたものが、より多くの人に知られるようになり、社会の中で広く認知され、受け入れられ、求められるようになった
ものです。
ブームと言われる段階では
一過性の社会現象
にすぎず、その後、
やがて消え去る
か、それとも
社会の中に定着して残る
かという道筋をたどります。
一方、
文化
とは、社会の中で暮らす人たちの、
衣食住といった生活の中に広く溶け込み、持続的なライフスタイルとして定着している
ものです。
今の、いわゆる
ペットブーム
というものは、
1980年代後半
に始まりました。これはちょうど、
バブル景気
のあたりと重なっています。収入が増えて、使えるようになったお金をペットにつぎ込んだという部分があると思います。
ペットブーム初期には、ハスキーやシェルティーなどが人気を博し、最近はダックスフンドやチワワなどが人気犬種になりました。
犬種に対する好みの変化はあるものの、ペットに対する人気自体は衰えてはいないようです。
ペットブームの盛り上がりにおいて、多くの人々をペットに向かわせた動機の大きなものとしては、「かわいいものを手に入れたい」「ステータスを得たい」などといった、
人の欲求
がありました。
ブームの盛り上がりの中では、
倫理観は揺らぎます
。それが善いかどうかと言うことは二の次になり、
対象を手に入れていることこそが価値のあることだ
と考えられるようになります。
それは、流行の服、流行の歌などというものを考えると理解しやすいです。ブームの中では、その流れに乗っていないと、それだけでダサい、かっこわるいと見なされ、価値が低いとされてしまいます。
そして、自分も価値のある存在であると感じたいために、また自分自身の欲求を満たすために、ペットを手に入れることこそ“良い”ことだと考え、手に入れようとします。
ペットブームの陰において、倫理観の欠如や視野の狭窄から、
保健所での殺処分数の増加
や、
マナーの悪い飼い方
など、問題点も多々見られるようになりました。
その根本的な原因は、
理性と良心の欠如
です。
手に入れることこそが価値のあることであり、欲求を満たすことがすべてとなると、そのことがどういう結果を引き起こすか、どういう影響が起こるかということには、無頓着になります。
一方で、バブルもはじけた90年代初頭から、「
コンパニオンアニマル
」という言葉が唱えられるようになります。バブルもはじけ、少し冷静になってきたのかも知れませんが、ペットに対しての接し方も見直されはじめ、欲求を満たすためだけの対象としてではなく、
愛情を注ぎ、互いにひとつの存在として向き合うことのできる、大切な家族
として見なされるようになり始めました。
欲求を満たすためだけの対象でなくなってきたあたりから、ただのブームではなくなってきたと考えられます。
一過性のブームは、社会に浸透し、みんなが飽きると、誰しも見向きもしなくなり、忘れられ、消え去っていきます。
ペットのブームにおいては、「飽きて、誰も見向きもしなくなる」ということは、この先もなさそうです。
確かに、犬種ごとの中では、「
ハスキーブーム
」「
ゴールデンブーム
」「
チワワブーム
」など、ある特定の犬種が急にもてはやされるようになって、しばらくすると急に熱が冷める、ということはあります。
でも、ペット全体で言えば、単なる一過性のブームではなく、社会の中のライフスタイルに溶け込んで、持続していきそうです。
ブームと文化を分ける境界線として、一番重要なことは、
理性と良心がそこにあるか
、ということではないかと思います。
ブームでは、人の「手に入れたい」という
欲求を満たすことが目的
となります。その過程では、
その欲求を満たす上でどういう“陰”の部分があるか、ということは忘れられ、目を背けられます
。
理性と良心を伴わない欲求は、
欲望
でしかありません。
社会の中で、持続可能なライフスタイルとして成立させるためには、自分達の欲求だけではなく、「何を、どういうふうに求めていくか」という、
自分達の行為への洞察や自己規制が必要
です。
「欲しいから手に入れる」というだけで倫理観が欠如しているなら、その行為は持続可能ではなく、いずれ破綻します。
ペットに関しての“ブーム”という言葉も、いずれ「文化」という言葉に置き換わっていって欲しいと思います。
動物は、人間の欲求を満たすために存在している訳ではなく、倫理観なしにぞんざいに
扱って良いような存在ではありません
。
ただ、人間の欲望を満たすためだけのブームなどは、早く過ぎ去ってしまって欲しいと思います。
ペットブームは今後、過ぎ去り、忘れ去られるのではなく、文化として成熟し、持続していくと思います。
その中で、獣医師が果たすべき役割は大きいと思います。
獣医師のするべきことは、ブームの中で人々の欲望を満たすための手助けをすることではないと思います。
ペット文化が成熟されていく中で、
社会の理性と良心としての役目を果たし
、スペシャリストとして、
自分達にしか創造することのできない文化的価値を生み出し、それを社会に伝えていく
、そのことこそが大切なこと
ではないかと思っています。
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