僧帽弁閉鎖不全症とACE阻害薬


心臓が悪い時に飲む薬と言うのはいくつもありますが、
その中でも大切なものがACE阻害薬という薬の種類です。
これは、体の中でアンギオテンシンという物質ができるのを阻害するための薬です。
アンギオテンシンというのは、体の中で血管を強く収縮させて血圧を上昇させる物質です。

僧帽弁というのは、心臓の中で心房→心室という向きに、
血液を一方通行で流れるようにするために役立っている弁ですが、
僧帽弁閉鎖不全などの弁逆流性疾患の時には、
心室が収縮した時に弁がきっちりと働かず、
体の方に送られるはずの血液が心房側に逆流してしまうようになります。

すると、心臓収縮時に血液が逆流して、
体の方に流れる減少してしまう事になりますので、
体の血圧は低下します。

それを代償するために、体は体中の血管を収縮させ(血圧上昇)、
体を流れる血流量を増加させる事で(血流量増加)、
血圧を維持させようとします。

心臓病が進行する前の段階であれば、
この代償機能は低下した心臓の能力をカバーする役に立っているのですが、
心臓病が進行し心臓の能力が低下すると、
代償機能は破綻し、心不全に進行する事になります。

心臓病になる動物は、スピードの違いこそあれ、
少しずつ心不全の状態に向かって病態が進行していきます。
そのスピードを決定するのは、
「弁の変性」と「心筋の肥大・変性」の程度です。

心臓に雑音がある動物が、すべて心不全の状態まで進むというわけでもなく、
心臓病を持っている動物でも、そのまま無症状で生涯を終える可能性もあります。

弁の異常に対して代償能力が追いつかなくなった時点が、
心不全の発症する段階になります。

血液量の増加や血圧の上昇が心臓に対して負担をかけ続けると、
心臓は内腔の拡大や心筋の肥大で対応しようとします。
すると、最初は心機能低下をカバーするために働いていた代償機能が、
やがて心臓の長期的予後にとっては良くない結果になって来ます。

血液量の増加は心臓に負担をかけ、
先へ送り出す能力が低下すれば肺水腫、腹水へとつながります。

心臓の肥大は、拡張能力および運動能力の低下、
心筋の低酸素、心筋の線維性変性へとつながり、
そうなると心臓の能力はさらに悪化してしまいます。

代償能力が働くことにより、血液量が増えて血圧が上がる事は、
短期的には代償として心臓の能力をカバーするように働きますが、
長い目で見れば、心臓が無理をする事は自分の首を絞める事につながります。

それを防ぐために期待されているのが「ACE阻害薬」です。
ACE阻害薬の作用は、血圧をマイルドに下げる事と(血圧低下)、
マイルドに循環量を下げる事(利尿作用)です。

この作用は、心不全の状態になっていて、
すでに心臓の機能が低下している時にも有効なものではありますが、
さらに注目されているのは、
まだ心不全になっていない状態の動物の心臓に対しての効果です。

というのも、ACE阻害薬は、
循環量を増やしたり血圧をあげたりして、
"心臓が頑張ろうとしている"のを、
「そんなに無理しなくて良いんだよ」
と、肩の力を抜かせる様な役目を果たす薬だからです。

利尿薬や強心薬は、心不全の状態になってから、
心不全の症状を抑えるために使う薬ですが、
ACE阻害薬は心不全になる前の状態から用いる事によって、
心臓の変性を防ぎ、心臓の寿命を延ばしてくれる効果を持っています。

以前はキャバリアを使った実験でACE阻害薬の効果が疑問視されたこともあったのですが、
現在は、ACE阻害薬の使用によって、
心不全の状態になるまでの時間が伸びるというエビデンスが出ています
("ACE阻害薬に心不全までの期間延長効果がない"、のではなく、
 "キャバリアが特殊だ"というところらしいです)。

したがって、心雑音が見られる場合は、
初期の段階からACE阻害薬の話をして、
なるべく飲んでもらうようにしています。

ちなみに、「β遮断薬」と言う心臓の収縮性を抑える薬の使用も、
同じ理由から心臓病の初期から使用が推奨されています。

弁の変性はしかたないにしても、
心臓の変性は防止できるものであれば何とか防止したいところですので、
心不全への進行を抑えるために、症状がない段階から、
治療を考慮しておいた方が良いと思います。


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